君が僕以外の人をいつか選んでしまってさ。 「僕を獣が見失う」6

僕は壊れてしまった

君が僕以外の人をいつか選んでしまってさ

さかいゆうというアーティストを語る上で、後世忘れられない、どころか、避けて通ることのできない曲になるだろう。 ひさしぶりのシングル曲となる「君と僕の挽歌」は、それだけの感情が込められた歌だ。 そう、挽歌……今はもういなくなってしまった、かけがえのない人のことを、さかいはこの曲で悼んでいる。 「自分の中から、とても素直に出てきた曲ですね。 これはいつか僕が死んだ時、あいつが『あの曲良かったよ』って言ってくれればいいんです。 だけど同時に、たくさんの人に聴かれるであろうことも考えて、ポジティヴな曲にしたいと思った。 だからその内容をボカさないで、ウソがないように、何回も何回も書き直しして……その間は心がグラグラ来ましたね。 この唄を聴いて元気になってくれる人がいたらいいな、と思います」 ここで言及されている「あいつ」とは、さかいが青春時代を共に過ごした、とある親友のことである。 やけに気が合ったふたりは楽しい瞬間をいくつも重ね、両者の間には尊い友情が芽生えた。 しかしその彼は不幸なことに、突然この世を去ってしまう。 そこからさかいの人生は大きく変わっていくことになった。 亡くなった親友の部屋を訪れたさかいは、そこでエリック・クラプトンやロバート・ジョンソンなどの、もはや遺品となってしまったCDをプレイヤーに入れる。 当時、未来への漠然とした目標も何もなかったさかいに対し、急逝した彼はミュージシャン志望だったのだ。 「その部屋で彼の持っていたCDを聴いていたら……自分はいつの間にか音楽の世界に入ってたんです。 しかしその出発点である音楽の道を選んだ動機として、この親友を失った出来事はあまりにも大きかったのだ。 「君と僕の挽歌」の唄い出し、いきなり聴き手の心のド真ん中をわしづかみにする<淋しさは続くだろう この先も>という言葉は、その赤裸々な感情に他ならない。 「ソングライトしながら、やっぱり泣けてきましたね。 言ってみれば、この歌はバラードではないんです。 サウンドはロックじゃないけど、すごくロックな気持ちで唄ってます。 それに彼が死んだって、僕は生きていかなきゃいけないわけですからね……」 歌の中でとりわけ印象深いのは、サビの<How's it going? How's it going? 調子どうですか?>というフレーズだ。 この世にいない相手に向かって何度も語りかけられるこの箇所には、さかいのリアルな心模様が浮き彫りになっている。 「死んだあとにどこに行くかなんて、わからないじゃないですか? たとえば彼の骨を焼いたら、その煙が雨に吸収されて、その雨がどこかのトウモロコシか何かの栄養となって、それを僕が食べるかもしれないし……そういうふうに<どこかで生き続けてるな>と思えることが、僕は救いがあると思うんです。 そういう意味も込めて<調子どうなのかな?>って。 こちらも元気じゃない時もあるし、<空見上げるばかりさ>なんですけどね。 聴く人には、これを遠くの友達と重ねてもらってもいいし……そんな歌ですね」 せつなそうな、悲しそうな表情を浮かべるさかい。 いや、悲哀や孤独は今までの彼の歌にもあったが、この曲でのそれは途方もなく大きく、重たい。 しかしそこに希望のような感覚もかすかに宿っているのは、本当に素晴らしいと思う。 そしてこうしたテーマに向かう原動力となったエモーションは今、自身の音楽の、歌のあり方を変えようとしている。 3年前のデビュー当時のさかいはシルキー・ヴォイス云々と言われたものだが、マルチ・プレイヤーである彼は、その声質も含め、どちらかといえばサウンド指向だった。 それがここではグッと歌に意識が向かっているように思うのだ。 「いまエディット・ピアフにハマってるんですけど、毒っ気があって、でもすっごい悲しいですよね。 ビリー・ホリデイとかもそうだし、フランク・シナトラやマーヴィン・ゲイなんて歌にストーリーが見えるんです。 そんなふうに最近は<どうやったらいい歌唄えるんだろう?>ってことをよく考えていますね」 こうして自分の世界の開拓に必死だという彼は、去年の全国ツアー終了後からずっと制作に打ち込み、試行錯誤をくり返しているようだ。 その成果は今年、そう遠くないうちに耳にすることができるはずである。 「アッパーだったり、サビがキャッチーだったり、シングルの候補になる曲はいろいろあったんです。 でも僕はどうしても<君と僕の挽歌>をシングルにしたかったので、うれしかったですね。 これが自分が一番伝えたいことだし……それに僕は<頑張ろう>以外の言葉を使って、人を元気づけたかった。 そのためにはやっぱりリアリティのあるもの、自分の一番触れられたくないところを書くしかない、と思ったんです」 その時、揺らめいていた彼の瞳が、強く輝いた。 2012年、春。 さかいゆうの歌の、新たな扉が開かれようとしている。

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「僕を獣が見失う」6

君が僕以外の人をいつか選んでしまってさ

5年に一度くらいの頻度で人を好きになる。 だけど、僕には欠陥がある。 僕は傷を抱いた人しか好きになれない。 と出会ったのは今からとほど前、僕が働くにとして入社した。 僕はで、はだ。 僕がに対してはじめに抱いた印象は、決して良くなかった。 人は見た目が九割というが、はどう見ても外見的に僕が好きになるのではなかった。 いかにも軽薄そうで、上手な感じで、のように見えた。 そういった心証があった。 僕とはすれ違っていた。 あまり会話も交わさない、お互いが顔を合わせた時は便宜としての。 「ございます」と声を掛け合うくらいの関係。 今となって思うのは、そのままの方が良かったんじゃないかってこと。 だけど、いつしか変化が訪れた。 僕とはなのだけど、ので軽く会話をした。 の話や、の話はもとより、のだったり、の生活の話だったり。 とりとめのない会話が続いたけど、僕が先に抱いた心証は少しずつ変わっていった。 「は気むずかしい人だったと思ったけど、話してみたら案外ですよね」なんて僕は言われる。 それはだけど、僕もおんなじだったんだ。 との関係性に変化が現れたのは昨年の冬。 上がりが重なったせいか、の気紛れで一緒に遊びに行こうという話になった。 よく分からない。 一緒にをしたり、夕食を食べたり、した。 何度か、遊びに出掛けたり、飲んだり、した。 しかし、関係性に若干の変化が訪れても、当時の僕はまだを好きになっていなかった。 いつだったか、よく覚えていない。 たしか、今年の初頭だったと思う。 からを受けた。 には別れようと思っているがいた。 そのは、がいうには未練たらしく関係の再構築を謀ろうとしたらしい。 が別れようと思った理由は、端的にいえばだ。 のを覗いた時に、その証左を得たらしい。 どういった証拠を掴んだかはここには書かない。 だが、がするものだ。 を使って確固たる証拠となるものといえば、いくつかしかないだろう。 は頻繁に届くや鳴り止まぬに、少しの怯えを見せていた。 との関係性がしかけた頃、は軽いを受けた。 本来的なではなく、傷が残るものではなく、押さえ付けられたり、首を絞められたり。 傷の付かない。 だからこそ、誰かにそんな話を聞いて欲しかったのだろう。 今になって分かるのは、にとっては誰でも良かった、ということ。 話し相手として、偶然に僕が選ばれただけで、しかし僕以外にも社交的なは他の誰かにも同様のをしていただろう。 僕は『誰か』に過ぎない。 何人もいた『誰か』にしか過ぎない。 は、でも既に壊れていたのかも知れない。 との関係が壊れてしまったとき、は壊れてしまった。 を傷付けるために沢山の男と寝た。 身体目当てで寄ってくる男は、最悪だと思いながら、そんな男を抱くを最低だと感じながら、を演じるために。 なんで僕にそんな話までするのだろう? 僕は疑問を感じていた。 話を聞いてくれるだけの捌け口だったからだろう。 はロバの耳で、僕はのを緩和させてあげられれば良かった。 そういう。 だから僕はと会い、どんな話にも興味を持って耳を傾けた。 僕はそんな毒にしかならない話を聞きながら、かわいそうだ、とか、不幸だ、とか、そういった感慨は抱かなかった。 全ての結果には原因があって、それをなぞるのが僕たちの生きているだ。 はを傷付けるために、そのためだけにその道を選んでいた。 かわいそうでも、不幸でもないと思う。 ただ僕は、いつしかそんなを好きになってしまった。 沢山の男と寝る女に? 僕はそんな話を聞いても傷付いていない。 だけど、おかしい。 何故かそんなを愛しく感じてしまった。 僕はきっとおかしい。 そして、あの冬が終わりそうだったあの季節。 もうすぐ春が訪れそうだったで、僕のはから一通のを受信する。 残念ながらティックな展開なんてない。 これはだから。 ただが『これからとをして、しっかりと別れを告げようと思います』とだけ、僕に伝える。 僕はが傷付く要素が減れば、それは良いことなんだろうな、と何となく思っていた。 だから『頑張って』と返す。 夜中の3時くらいだった。 からがくる。 は泣いていたのだろうか? 辛かったのだろうか? ただ、少し涙声に聞こえる声で、的にやられてしまったんだろうな、というのは分かった。 僕は、くさいしか吐けない。 きっと(これを読んでいる)あなたが聞いたら寒気がするようなしか伝えられない。 君が笑っていてくれたら僕は嬉しい、だからいつもを忘れないで。 本当はすごく会いたかったのに、君をもっとちゃんと励ましてあげられたら良かった。 目を見て話したかった。 僕はが恋しくなる。 いつも会いたいと思うようになる。 それが、3ヶ月くらい前。 そうしてまた何度か遊びに行き、飲みに行って、僕は酔っ払ったまま、にの気持ちを伝えた。 僕は君が好きだって。 雪は溶けて、季節は春になっていた。 僕は優しく振られる。 でも、それで良かった。 このよく分からないな気持ちを、ちゃんとにして伝えられて良かった。 それだけで少しだったんだ。 は優しいから、僕とはそれまで通りに接してくれる。 僕は今だってのことが好きだけど、だけど、本当に『この気持ちが』好きなのかどうかは分からない。 が他の男と肉体的な関係を持っても、別にどうでもいいと思うがいて、が妻子持ちとをしているのを僕に告げても僕はどうでも良くて……それは本当に好きなのだろうか? これって、好きっていえる? こういうは、よく分からない。 僕が昔、をしていた本当に救いようのないをしていた女を好きになった時も、その好きだった子がしても、僕があの子を好きだったあの頃のように。 を悲観してを安定させるために恒常的なを続ける別の女を好きだった時も。 全部が全部、それは副次的な要素として完結していると考えてしまう僕の気持ち。 頭でいくらおかしいと理解していても、心が付いていかない。 どこか遠くに離れている。 今好きなを、好きだっていえるけど。 これは好きと違うのかな。 ただの同情なのかな。 を抱きたいとも思わない。 直截にいえば、したいとか思わない。 だけど、ただと思う。 このが、一体なんなのだろうと、僕は考えている。 だけど君にとって、僕は『誰か』であり続けるのが正しい。 これからもそうしようと思う。 君は君で、僕は他人だ。 ただなを抱いているだけの、壊れてしまったなのだから。 出来すぎた話だが、これを書き終えた今、からを受けた。 すこし辛い気持ちになってしまった。

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【Orangestar/アスノヨゾラ哨戒班】の歌詞の意味を徹底解釈

君が僕以外の人をいつか選んでしまってさ

うわ、朝から会えるなんて、杏奈、すごく運いくないですかぁ?」 「風間ー。 俺もいるんだけど、俺に会えたってのは運いいのに入らないの?」 「あ、山上さんもいたんですかぁ? 杏奈、宗谷さんしか見えてませんでした。 ごめんなさい」 てへ、なんて笑うその声に、僕は自分自身でもはっきりと、眉間に深い深いしわが刻まれるのを感じる。 「でも宗谷さんがこの時間に出社するって珍しいですよね。 寝坊ですかぁ?」 「まさか。 僕は朝には強いんだ。 今日は純粋に家庭の事情」 さらりとあながち嘘でもない理由を吐けば、すぐ隣で山上がぶは、と吹き出した。 「そうくるか。 つかさ、宗谷の場合、その『家庭の事情』でいつも早朝出勤してんだよな。 普通、定時帰宅したいからって残業分を早朝に持ってくるとかやるか?」 半ば呆れ顔の山上に、僕はほんの少し肩を竦める。 「別に、何も問題はないでしょう? 冬場でもなければ僕の席は窓際だから部屋の電気を点ける必要もないし、冬はみんなが来た時点ですでにオフィスが暖かくなってるわけだし、僕は邪魔が入らないから仕事が捗るし」 「すっごーい! やっぱり宗谷さんって色々考えてらっしゃるんですねぇ! てか宗谷さんが早朝出勤してるなら、杏奈も見習って朝早くから来ようかなぁ」 ちらりとこちらを上目遣いに見てくる彼女に、神経がちりちりとささくれ経つ。 その不快感を隠すのすら面倒で、僕は視線を前に向けたまま、そっけなく返した。 「そんな朝から来て何をするの? 意味もない早朝出社を認めてくれるほど、二宮さんは甘くないよ。 朝早くから来る人が増えても邪魔だし、そもそも残業や早朝出社なんてしないでいいように仕事をするのが正しい心がけだと思うけど」 「そうだよなぁ。 宗谷の場合はあれこれ押し付けられてるから早朝出勤が必要なわけで、本来の仕事だけなら全然必要ないもんなぁ」 「うん。 それに、早くに出ても仕事がない時は請求してないし」 「え、マジ? じゃあ全然意味ないじゃん」 「意味はあるよ。 一緒に出られるから」 そっと山上に視線を向けて、端的に言葉を綴る。 それだけで意味を理解したのだろう。 あーあーなるほど! と声を上げて、訳知り顔でニヤニヤとこちらを見る。 うん、君の事だからそんな顔すると思ってたよ。 「あー、二人だけでわかりあってるー! ずるいです。 杏奈も仲間に入れてくださいよぉ!」 キンキンと神経に障る声が頭痛を増長させる。 この不快感と頭痛で午前中は仕事にならないかもしれないと懸念を抱きつつ、僕らはようやくたどり着いた社ビルのロビーへと足を踏み入れた。 * * * その日以来、彼女はほぼ連日、定時に仕事を切り上げて僕を追いかけてくるようになった。 時には仕事が残っていても関係なしなようで、佐々木さんや二宮課長代理も真剣に頭を抱えている。 けれどその原因であろう僕に苦情が来ないのは、僕自身が彼女に迷惑をかけられていると知っているからだろう。 元々夏が深まると体力と食欲が落ちて体重を落とす僕だけど、今年はそれが七月も半ばを過ぎたばかりの今からすでに始まっている。 完全にストレスだね、と、ワカからもお墨付きをいただいてしまった程で、一応体力を落とさないようにとなるべく滋養のあるものを食べるように努力はしているけれど……どうなんだろう、あんまり効果があるようには思えない。 「……別に、君を待たなきゃならない理由もないでしょう。 それで、何か用?」 「だからさっき、一緒に帰りましょうって言ったじゃないですかぁ。 やだな宗谷さん、暑さでボケちゃってます?」 とりあえず、タメ語にですますを加えたところで敬語にはならないって事、この子は知らないのだろうか。 ……きっと知らないんだろうな、この様子だと。 まあ、勤続年数はこっちが上だけど、年齢自体は同じぐらいだから仕方ないのかもしれない。 「君と一緒に帰る理由もないし、寄るところあるから」 「そうなんですか? あ、じゃあ杏奈、お付き合いしますよぉ。 どこに行くんです?」 ……本当に、いい加減にしてほしい。 謙虚さとか空気を読むとかといった日本人特有の性質を、この女性は持ち合わせていないのだろうか。 そもそもこんなに君とはご一緒したくありませんオーラを出しているのにどうして気づけないんだろう。 いや、気づいていても無視しているのか。 だとすればいっそ、僕にそのスルースキルを分けてほしい。 「別にどこでもいいでしょう。 君には関係ない」 ほとほと疲れ果てて切り付けるように言い捨てる。 そしてそのまま雨の中へと足を踏み出す。 多分いつものように勝手について来るんだろう彼女を意図的に無視して、駅のすぐ傍にあるドラッグストアへと意識を集中させる。 後ろから慌てたような声が聞こえたかもしれないけれど、気のせいだ。 雨の音に混じる雑音に違いない。 一先ずの目的地であるドラッグストアに着いた時、遠くで稲妻が光るのが見えた。 まるで嵐のはじまりのようだなんて頭の片隅で考えながら、僕は店内へと閉じた傘と共に踏み込んでいく。 そのまままっすぐに迷う事なく一番奥に位置しているそのコーナーへと足を進め、それなりに商品の揃っている棚を眺めた。 てか、よくここまで来たよね。 普通の女性ならなるべく来たがらないと思うんだけど、やっぱり普通じゃないからだろうか。 うーん、とわざとらしく一つ唸って自分サイズのコーナーへと視線を移動させる。 こうして見てみると、なにやら色々な種類があるのだなあと妙に感心してしまった。 薄さは確かに重要だけどなんだこのイボ付きってのは。 世の中の男性陣はそんな付属品なしで女性を満足させられないのだろうか。 それにこのフルーツフレイバー付き……は、ああ、うん、なるほどそういう用途か。 まあ不快感を与えないって意味では重要かもしれない。 そのついでに、今切実に必要だと思われる胃薬を拾い上げた。 会計を終えて店先までやってきたところで、てっきり消えてくれたものだと思っていた姿を目にしてげんなりする。 頬がやたら赤く見えるのは、この雨による蒸し暑さが原因なんかじゃないだろう。 「お、驚きました。 宗谷さんああいうの、普通に購入するんですね」 「……君さ、そんなに人のプライバシーとプライベート覗くの好きなら、うちの会社辞めてゴシップ記者にでもなれば?」 「あたしは! ……あたしが知りたいのは、宗谷さんの事だけです!」 ああ、うん、もう無理。 これ以上は本当、マジ勘弁してください。 「で、僕は知られたくない。 わかる? 迷惑なの。 僕には恋人がいるし、彼女とは別れる気もないし、他の女性なんてどうでもいいの。 むしろ君は僕にとって煩わしい存在なだけ。 それに、迷惑してるのは僕だけじゃない。 君が僕を追い掛け回しているせいで会社にも迷惑かけてるってわからない? 佐々木さんからも二宮課長代理からも言われてるんでしょう? 寿退社目当てで入社したらなら会社の事なんてどうでもいいかもしれないけれど、とりあえずその相手を探すなら、僕以外にしてくれ」 はっきりきっぱり言うべき事を告げる。 僕にここまではっきり言われるとは思っていなかったのだろう。 顔に驚愕を貼り付けた彼女は、言葉すらも出せずに、まるでおかしなものでも見るような目で僕を見つめた。 その視線すら本当にうざったくて、僕はさっさと傘を開くと雨の中へと足を踏み出した。 通りすがった八百屋さんでラジオが天気予報を流していた。 どうやらこの雨は夕立ではなく本格的な雨に発展するようだ。 遠い南洋では第何号かの台風が発生しているらしい。 無駄に時間を使ってしまった。 早く帰らないと、夕食ができるより先にワカが帰ってきてしまう。 頼むから日本に上陸するのはもう少し後にしてくれと心の中で呟いて、僕は駅までの短い距離を急いだ。 読了 よかった イマイチ 誤字脱字•

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